新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」を鑑賞したので記憶のあるうちに感想を残しておこうと思います。天災と神様、家族、恋といった要素を織り交ぜながら、儚い人間のいのちについて考えさせられる作品でした。ネタバレを含むのでまだみていない方はそっと閉じていただいて、鑑賞済みの方はぜひ感想を聞かせてください。記憶を頼りに記載しているので誤りもあるかもしれませんがご了承ください。
登場人物とあらすじ
宮崎県のとある田舎に住む高校2年生のすずめは実母の妹、環との2人暮らし。ある夏の日、登校中に「廃墟にある扉を探している」と言う”閉じ師”の草太と出会う。その扉は冥界と繋がっていて、閉じ師の持つ特別な鍵を掛けないとそこから”ミミズ”と言う謎の地底生命体が噴出して、地震を起こしてしまう。
町外れの廃墟にある扉を先に見つけたすずめは扉の側にあった要石と言う役割を担っていたの猫の姿の神様(ダイジン)の封印を解いてしまった。さらにダイジンは草太に呪いをかけて椅子に変えてしまった。
椅子に変えられた草太を元に戻すため、ダイジン捕獲を試みるが愛媛行きのフェリーに逃げられてしまい、すずめと椅子の草太はそのまま愛媛までダイジンを追うことに。。
これからどうなっちゃうの〜っ!?というドタバタ劇で始まります(以降作品の具体的なネタバレ含みます)
あらすじだけ見た時の想像
Amazon Prime Videoで映画の冒頭12分だけ見れるようになっています。上記あらすじもほぼその12分に収まっています。(ちょっと越えた話も触れていますが)
宮崎から冥界の扉を閉めていく、淡路島に向かう、というのは天岩戸神話に絡んだ話かな、すずめが君の名は。の三葉のように扉の前で舞踊するのかなと想像したのですが結構違いました。
メインテーマは3.11被災者のすずめが12年越しに気持ちを整理する話
たくさんの命を一瞬で失った現実の大災害というセンシティブな題材に対し、謎の地底生命体や神様が出てきてスケールアップしていて、視聴直後はこの作品をどう捉えていいのかモヤモヤしましたが、メインの話は3.11の東日本大震災で齢4歳にして実母を亡くしてしまったすずめが、草太との出会いを経て生と死に向き合い気持ちを整理すると言う話だと思いました。
すずめの心境の変化は以下の3段階あったと思います。
- 「自分の命なんて生きていても死んでも同じ。」【価値なし】
- 「自分の命に変えてもあなたを助けたい。」【等価】
- 「あなた・わたしは大切な命。」【代え難い価値】
「自分の命なんて生きていても死んでも同じ。」【価値なし】
閉じ師の仕事は命を懸けて行う仕事です。身体に傷を負いながら扉を閉める草太をすずめは手伝って一緒に閉めようとします。「危険だ、命が惜しくないのか?」と言う質問に「死ぬのは怖くない」と即答するすずめ。
一見勇気のある子に見えますが、しかしどちらかというと勇気があると言うよりは、自身の命を軽んじているように聞こえました。その後も何度か「死ぬのは怖くない」と言う発言があり、母を亡くした強烈な喪失感から、自身の命についても無価値と捉えているように読み取りました。
「自分の命に変えてもあなたを助けたい。」【等価】
一方草太との旅をし協力して扉を閉めていく中で草太に対する大切な人という感情が芽生えます。ダイジンの呪いで草太が次の要石になってしまうのですが、そんな草太を助けるために冥界に出向きます。ミミズを抑えるためには要石が必要です。
「草太を助けたらミミズが噴出するよ?どうするの?」
とダイジンがすずめに問いかけると、すずめは要石になってしまった草太を強く握りこう言います
「私が要石になる」
これは単に無価値な自分の命を自己犠牲にするような気持ちではなく、草太に生きてほしい。そのために私の命を捧げるという自身の命の重さを理解した発言だと思いました。
旅をする中でたくさんの人の優しさにふれ、応援してもらったことで、自分の命を蔑ろにしないと言う気持ちを持てるようになったのだと感じました。
「あなた・わたしは大切な命。」【代え難い価値】
初めのシーンで3.11遭遇直後のすずめが母親を探していますが、最後にその回収となります。冥界はすべての時間が同時に存在する世界。4歳のすずめが出会ったのは16歳のすずめ自身でした。
母を失ったばかりで受け入れきれない4歳のすずめに、16歳のすずめは「これからあなたが好きになる人も、好きになってくれる人にもたくさん出会う。だから心配しないで生きて」と優しく語りかけます。
4歳から16歳まで自分の命に価値を持てなかったすずめが、改めて自分自身に生きていいんだよとエールを送るシーンから、自分の命を他の人と同じく代え難い価値だと捉えられたのだと感じました。
ツッコミポイント
普通そうはならんやろ、と言う点も幾つかあったので残しておきます。伏線回収されていることがわかれば随時追加します。
- 高校2年生が道端で見かけたイケメンにふらっとついていって半日無断で学校を休む
- ミミズの発生メカニズムやミミズを捉える黄色い光についてほぼ説明なし
- 草太の自宅の壁に閉じ師の活動情報がたくさん書いてあるのに親友の朋也は閉じ師のこと全然知らない
- 朋也の学生証には2023年度と記載があるのに、草太の教員学習テキストは2022年度版になっている
- すずめの父も草太の父も全く話に触れられない。
すずめの戸締まり ぜひ見てください
3.11を経験した人であれば単純なファンタジー作品とは思えないですし、君の名は。のようにスカッとするタイプの映画ではないと思います。ただ、例えば第二次世界大戦の経験や反省が風化しないようにとたくさんの作品が残されたように、3.11についても時と共に知らない人が増えていくので、将来こういった形でも継承されていくのかと知るためにもぜひ見てもらえればと思います。